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記 新名 健太郎 そろそろ雪も締まっているだろうということで、スモっさん、コタッキー、大住さんと4人で木曜の晩、白馬目指して出発した。 朝9時過ぎに二股から歩き出す。少し遅れて後ろから3人を眺めていると、乾いた空気と陽光があいまって、なぜか映画「スタンドバイミー」っぽい。勿論、それは後姿に限った話で、僕等は映画に出てくる少年達とは程遠い、どちらかといえば新世界あたりの「スタンドバー」の方がシックリくる邪悪な面々だ。例年なら猿倉までは除雪できており、アスファルトの歩きとなることもあるらしかったが、今年は二股を過ぎてスグに雪道となり、グサグサのラッセルとなる。除雪状況を確認し必要とあらばスノーシュー、山スキーを持参し白馬尻にデポすれば快適であろう。主稜の取り付きとなる白馬尻まで約4時間半。ここから予定ではテン場となる八峰まで登る気だったが、長いアプローチの疲れもあって、雪崩の心配のなさそうな所を発見しテン場とする。テン場着2時半。すばやくテントに入りリラックスした。しっかし濃いなぁー。みんな。こっちまで濃くなっちゃうよ。 翌朝、大住さんが体調不良の為、一人下山した。とりあえず出発したが、吹雪の為ツエルトに包まって天気の回復を待つ。30分ほどで少し晴れ間が見えたので再出発。次第に好天となり、あとは誰にも荒らされていない切り立った稜線を進む。 顕著なトレースはなかった。それはこのルートの最後にある雪庇に、トンネルをぶち抜いてピークに立てるかもしれないという可能性を感じさせた。スモッさん曰く、長い登攀の最後。頂上直下のハング気味の雪庇に気力を振り絞ってトンネルを掘り進むと、やがて壁の奥から一条の光が差し、最後のスコップの一撃で頂上への突破口が開かれ、その瞬間今まで感じた事もない至福の時が訪れるという。そんな自然が用意したにしては出来すぎとも思えるシナリオを体験できるかもしれないのだ。それはベートーヴェンの第9交響曲的に「苦悩を超えて歓喜に至る」という、単純明快な人類共通の感動公式を含んでいる。 八峰からアップダウンを繰り返し順順に歩を進め三峰手前でザイルを出した。このルート中最も美しいこのナイフリッジは、恐竜の背中の如く長大で鋭角的だ。申し訳ないと詫びながらリードさせてもらう。振り返ると二人とも最高に幸せそうにこちらを見守ってくれている。それほどこのリッジは美しいのだ。50mいっぱいでデッドマンとスノーバーを打ちこみフォローを確保する。スモトさんは「シビレルッ!!」を連発し、小瀧さんは「こりゃヒマラヤ並の景色だ」と唸った。 デッドマンはキマれば抜群の安定感を得られるが、その分掘り出す事が困難になるという弱点があるなぁと思う。 2峰の登りは急な雪壁でスモッさんのリードで行く。この時点で午後二時半。うまく行けば今日中に頂上へ抜けれるだろう、と思ったがそうは問屋が卸さない。僕と小瀧さんがどうしてもこのピッチを抜けれない。太陽の熱で雪がグサグサで、立ちこむたびに崩れ去る。もがけばもがくほどに深みにハマって行く蟻地獄。9mmのザイルに6mmのシュリンゲではプルージックも効かない。やむなくスモトさんに降りて来てもらい。二峰三峰間のコルにテントを張る。明日の朝、雪面が再び凍ったら一気に登ってしまおうという腹だ。テントに入って気づいたのだが、意外と気温は低いらしい。靴下が凍って、靴が脱げなくなっていた。 翌朝は無風快晴。1024ヘクトパスカルの高気圧がソウルあたりで停滞しているからだ。すばやく用意し昨日越えれなかった地点を越えた。きっちり雪が締まっていればなんのことはないのだ。前を歩いていたスモッさんが隠れクレバスにハマっていた。なぜかとても幸せそうだった。昔会報に載っていた浮き輪に身体を通してウレシそうにしている写真と同じ顔のように思えた。 最後の雪壁。60m2ピッチ。スモッさんのリードで行く。朝だから雪の締まりがよく、順調に高度を稼いで行った。直上して50mロープ一杯で支点を作り確保。僕等も快適に登って行った。そこから頂上へは右へトラバース気味10m程だ。残念ながら前述の至高体験トンネルは掘れなかったが全員、無事頂上に立つことが出来た。 帰りは大雪渓を下り、1時過ぎには車に着いた。小瀧さんの顔が”酒焼け”のように赤くなっていた。本当に酒焼けかもしれないけど、今回は違うらしい。大雪渓は全ての光を集めるようだ。つまり懐中電灯の傘の逆バージョンといったところ。かくいう僕もガングロで、帰って4、5日は唇がバリバリになって醤油がシミてしょうがなかった。 今回の山行で雪のルートは奥が深いなぁ、という実感を得た。気候も雪質も千変万化だから奥が深くて当たり前か。状況にあわせて臨機応変に自分の技なりアイデアを繰り出して行くことが魅力なのだろう。曰く、 「雪稜とは アドリブ万華と おぼえたり」 帰る時はもう2度と行かないだろうと3人で言いあったが、一週間経った今ではまた行ってもいいかなと思う。その時こそスノーシューかスキーを持って行こっと。できれば3月の末頃に。そして至高体験トンネルを抜けてプルプルするのだ。 |