ミニ白馬主稜? コブ尾根の記録 (GW山行3日目)

記:川奈部 陽子

メンバー:仕立 亮一(CL)、川奈部陽子
5月5日(金)

 岳沢 5:40→コブ沢→コブ尾根→コブ尾根の頭 12:10→天狗のコル 13:30→天狗沢→岳沢 14:00

 

 西穂パーティを見送り5時40分にテント場を出発。コブ尾根へは岳沢ヒュッテの横からコブ沢をコブの第1岩峰基部の下までつめる。私達がコブ沢に入ると、既に数パーティがコブ沢を登っていた。やはりゴールデン・ウィーク、昨日までの明神岳南西尾根とは違い人が多そうである。そこで仕立くんの提案で、コブ沢を行くパーティの後について行くのをやめて私達はコブ沢の下部からすぐ尾根に取り付くことにした。そしてこれがもう、大変な冒険になってしまった。

 下の尾根から登るパーティは他にはいなかった。急な雪壁を慎重に登っていくと、突然仕立くんが「うわ!やべー!」と叫んだ。何だ何だ?と上を見上げると、仕立くんの足もとの雪がそこらじゅうどんどんくずれている。仕立くんは、私には安定したところに留まるように言い、なんとかそこを登りきってからロープを出して私を確保してくれた。ああ、怖かった、と二人で一息つく。

 ダケカンバ帯を少し登るとコブ尾根上に出た。ここからはトレースのないきれいな雪稜を「やっぱりこうでなくっちゃ!」と二人でニタニタしながら登る。前を行く仕立くんがめっちゃかっこいい!細いリッジを登ったり下降したりの連続で、仕立くんは、「これはもうミニ白馬主稜です!」とかなりうれしそう。う〜ん、そうなのか。じゃあ今度は本物の白馬主稜に行きたいな。

 眼下にはコブ沢をつめている他のパーティが「おー?あんなとこから登っとるヤツラがおるぞ!」という感じで私達を見上げている。しんどいけど、気持ちいい〜!!!

 息を切らしながらも気分よく進むと、今度は立つこともできない極細ナイフリッジが現れた。左はコブ沢へ切れ落ちており、右側は雪屁である。雪はしまっているので崩れないだろうと思うが、ぐっと緊張感が高まる。慎重にトラバースしていくと仕立くんが途中で立ち止まり、「うわ、何じゃこりゃー?!」と下をのぞき込んでいる。その先が急に切れ落ちているらしい。かなりやばそうなので、あきらめて戻った方がいいかもと後ろを振り返るが、もう一度このウルトラナイフリッジ(多分大げさですが、私にとってはウルトラ級だったのだ!)を引き返すのも相当恐ろしい。少し戻りかけるが、やっぱり怖い。行きはよくても帰りはなぜか怖いのだ。「う〜む、どうしよう。」まさに進退窮まってピンチである。しばらく考えた末、デッドマンをセットしてこのまま雪壁を降りることにした。デッドマンがしっかり効いてるか確認し、「それじゃ、頼んますっ!」と仕立くんが気合いを入れて降りていった。無事に通過してしっかりしたダケカンバでセルフをとる。はあ〜、緊張した。今度は仕立くんが私を確保してくれ、私も通過。それにしても先に行った仕立くんは支点はデッドマンやし、私のビレーやし、不安やったやろうなあ。

 コブ沢をつめてきた人達が休憩している場所にようやく着くと、「尾根の取り付きから登ってきた人達でしょ?日本じゃないみたいですごいかっこよかったよ!」なんて言われて仕立くんも私もちょっとうれしかったりして。振り返ると、確かにすごいとこきたなあという感じがする。

 ここから他のパーティと同じように登っていくと、再び雪壁の下降があった。一応支点に残置スリングがあったが、懸垂の支点としては不安なのでプルージックで降りた。それからまた雪稜を登るとコブの第1岩峰の取り付きに出た。近道のつもりで尾根づたいにきたのに、あまりにもここまでの行程が充実していたため全然近道にならなかった。そしてやはりコブの取りつきは渋滞していた。コブの岩稜ではなく左横の急な雪壁を登るようだが、しばらく同じパーティが動かないようで、後からきたパーティが何人もジリジリと待っている。そこでコブの岩稜のそばまで行ってみると、一応ハーケンの支点や残置されたスリングなどが見える。少しかぶっていて難しそうだったけど、雪壁の順番を待つよりは早そうだと、岩稜を登ることにした。

 背後では、そんな私達にまた注目が集まる。「さすが若いもんはちゃうなあ!がんばれよ〜!」などと冷やかす声がかかり、ちょっと恥ずかしい。そんな中を、「じゃあ、頼んます!」と仕立くんが取り付く。ここでスルスルっと登って雪壁組をあっさり追い抜こうものならすごいのであるが、実際に取り付いてみるとやっぱり難しいみたい。「なんやこれ〜。ヤッバ〜!絶対落ちたらあかんのに〜。わっる〜!」とか「阿弥陀北西稜くらい難しいやんか、ああこわ。」とかブツブツ言いながら、あれ?フリーのムーブで登ってる!手をシェイクしてレストまでしている。「こんなとこで、なんでこんなことしやなあかんねん!」とこぼしながら本人はやむを得ずやっていることなのだが、アイゼンつけてフリーやってるようなその姿につい笑ってしまう。それでも何だかんだ言いつつ危なげなく登り、核心を越えた仕立くんは振り向いて、「陽子さん?」「なに?」「まあ、頑張ってくださいフフッ」と意味深な捨てゼリフを残し、さらに上へ姿を消した。

 なんだよ〜、阿弥陀北西稜って難しいんちゃうのん?フォローとはいえ、大丈夫かなあ。不安に思っていると、「ビレー解除!登っていいよ!」と遠くで声が聞こえ、ドキドキしながら取り付いてみる。仕立くんが「なんやこれ〜!」と叫んだところはとてもバランスが悪く、緊張のためつい体や手に力が入ってしまう。手がしびれてくるので足をつっぱって「あ〜しんど」とひとりつぶやきながら、結局私も同じようにレストしてしまう。ようやく仕立くんのもとへたどりつくと、「あれ?陽子さん、これも回収してきたん?」核心部に残置してあったスリングまで回収してきてしまったらしい。「え?これ仕立くんのスリングとちゃうのん?」「いやぁ、ここ登る時にあそこにこのスリングなかったら、ちょっと泣くと思いますわ。」ごっ、ごめんなさ〜い!

 1ピッチ目登ったところで、下で私達に声をかけていたおっちゃんパーティがもう左の雪壁から追いついてきた。「身が軽いね〜。俺もあと何年か若かったらそっちから登るんやけどなあ。」などとひやかされる。もちろん仕立くんが若々しいからなのだが、今日は人に会うたびやたら若い若いと言われる。確かにおっちゃんよりは若いよ。でも、おっちゃんが思ってるほどは若くないんだってば。まあヘルメットにサングラスだし、ここは笑ってごまかしとこう。

 結局ここでも近道のつもりが「阿弥陀北西稜もどき」のせいで全然近道にならなかったようである。「急がばまわれ。」とはよく言ったものだ。でも、面白かった。

 

 2ピッチの岩場を越えると後はコブ尾根の頭まで雪稜が続く。途中、雪壁の懸垂で先行の4人パーティがかなり時間をとっていた。そこは雪屁の張り出した狭いリッジでさっさと降りたいのだが、なかなか順番が回ってこない。さっきのおっちゃんパーティもやってきた。私達も、おっちゃん達もひたすら待つ。ようやく4人全員が降りると次に仕立くんがあっという間に降りていき、私もそれに続く。「こんなとこで懸垂の練習してんじゃねー!金毘羅で練習してから来いっちゅーねん!」とついぼやいてしまう仕立くん。金毘羅ってどこやねん。京都人しか知らんっちゅーねん。

 そこから先の雪稜はすでに階段状になっているが、長くて結構きつい。暑い。すぐ息がきれる。もっと心肺能力を鍛えなきゃなあ。ちょっと登っては立ち止まって息を整え、またちょっと登っては立ち止まる。そんな調子で登りながら、12時過ぎにようやくコブ尾根の頭に着いた。

 ここでも、一番しんどいコースで登ってきた人達やね、若い人はちゃうね〜などとやっぱり冷やかされて、苦笑い。(もうほんとの歳言われへんやん。)

 天気は快晴で、日差しがきつい。周囲の沢のあちこちで大小の雪崩が次々と起きる。雪崩を実際に見るのは初めてだ。いと恐ろしい。今日下る天狗沢は大丈夫だろうかと少し不安になるが、記念写真を撮り、レーションを食べ、15分ほど休憩した後、天狗のコルを目指して出発した。

 昼からは雪が腐って一歩ごとにアイゼンの雪を払わねばならず、神経を使う。1時半に天狗のコルに着いて一息ついていると、すぐそばまで岩ひばりがやってきた。コブ尾根の頭を出発するときにはすぐ後ろに何人かいたのだが、いつの間にか周囲に人影はない。静かに澄み切った青空と白い山並みに、岩ひばりの鳴き声だけが響いている。は〜、気持ちいいなあ。幸せやなあ。

 

 あとは天狗沢をシリセードで一気に下り、2時にテント着。岳沢ヒュッテの鯉のぼりが気持ちよさそうに青空を泳いでいる。はあ、疲れた〜。30分早く帰っていた西穂パーティがさっそく冷え冷えのビールを差し出してくれ、みんなで乾杯した。

 ビールはとことん冷たく外はポカポカと暖かい。幸せだ〜。全員で記念写真を撮ってから中西さんと川崎さんが一足早く下山するのを見送り、その後も外でのんびり日なたぼっこした。

 本当に、今日もこわおもしろい(=ちょっとこわいけど面白い?)実に充実した1日だった。他のパーティがひたすらコブ沢をつめている間も、私達は美しく、ちょっとスリリングな雪稜をたっぷり味わうことができたのだから、2倍いやそれ以上楽んだようなものだ。これも仕立リーダーのおかげである。本当に感謝感謝。

 ちなみにこの日の夕食は河村さんの愛情たっぷり野菜たっぷりツナカレー。みんなでわいわい言いながら作っていたら「こんなに作ってどーすんねん!」というほど沢山できてしまったのだが、いざ食べ始めたら、美味しくてあっという間に鍋は空っぽ。疲れた身体にカレーがじわーっと染み込んでいったのでした。

 

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