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記 中島 憲一
■5月3日 曇り 朝からの雨は止んだものの、徳沢までは人ごみでうんざりする歩きだった。新村橋で涸沢ベース隊と別れてから、私達だけの静かな登りとなる。 奥又白谷を夏道沿いに登り続けるうちに、天候が崩れガスってきた。視界が悪くいつのまにかルンゼに入ってしまった。ヤバそうな予感を持ちつつも、そのまま登り続けると傾斜が急になってきた。慌ててトラバースし左岸の樹林から尾根に上がると、この尾根が慶応尾根で一安心。ここからはアイゼンをつけて登る。 この日は八峰に合流する手前のピークとのコルでテントを張り、治雄さん持参のバーボンをあけて明日からの健闘を誓った。
■5月4日 快晴
雪稜をたどり七峰を目指すも、初っ端の岩稜でさっそくザイルが必要となる。六峰も草付き混じりの雪稜にてこずり、安全をきしてザイルを出す。一度ザイルを出すとそれから後ノーザイルでは怖くなり、結局六峰の通過にかなり時間をくって5・6のコルに降りた。 先は長いし、このまま涸沢に降りれば宴会モード・・・との誘惑が頭をかすめるが、さすがに誰も降りようとは言わない、とにかく頑張って今日中には3・4のコルまで行きたい。 5人でザイルが2本、メンバーの状況から判断してスピードアップを図る為、家山さんと治雄さんでルートを登り、バックロープをフィックスする。残りはプルージック(タイブロック)で登ることにし、私が雪稜に不慣れな二人をフォローする。
ザイルべた張りで五峰を通過し4・5のコルに降りる。まだ2時過ぎ、迷うところだが無理せず今日はここまでとした。四峰に2ピッチザイルフィックスし、雪面を丹念に整地してテントを張った。
それで涸沢ベースに無線連絡をするが、他パーティーの交信はジャンジャン入ってくるのに、こちらは全然通じずやきもきする・・・。(ベースの方でも交信を試みていたそうだが、電波の特性によって、見通しのきく場所まで移動しないと通じないようだ) 北尾根を甘く見すぎたこと、計画書にエスケープルートを書かなかったこと、無線交信の打ち合わせをきっちりしなかったこと等々を反省しても今更どうしようもない。そんなこんなでやや疲れ気味、一人元気な謀氏が連発するオヤジギャグに、しらける気力もわかず早々と眠りについた。
■5月5日 晴れ
四峰の岩稜は侮れず、困ったことに岩にも雪にも、満足なアンカーがとれない、ナッツ・フレンズを持ってこなかったのは痛い。四峰直下では下降するパーティーと交錯し、登りに手間取る。後続パーティーには次々追い抜かれ、3・4のコルで一時間以上の順番待ちとなった。 コルからいよいよ北尾根の核心部・三峰の登攀になる。家山さんと治雄さんとで、左を巻き気味に登り、凹角を超えてチムニーを攀じる。3級の岩場ながらアイゼン・手袋で荷物を背負っているから結構きつい。 登りつづけて高度が上がり視界が開けると、眼下には岩と雪のスカイライン。なかなか絵になるシチュエーションで、気持ちも盛上がる。(但し、若干一名がへこたれ気味) 三峰直下の岩塔を涸沢側から巻き、もろい岩場を直上すると稜線の斜度が落ちてきた。頂上は近いがまだまだ気の抜けない岩稜が続く。慎重に二峰を降りて最後の雪稜を登りきると、360度遮るものの無い前穂の頂上に着いた。全員がっちり握手し悦びをわかちあう。苦労しただけに完登の悦びもひとしおだ。
![]() その後、山頂で写真を撮ったり展望を楽しんだり、しばらくくつろいで奥明神沢を下降した。思いのほか短時間で岳沢に下れたが、結構急な沢でクサレ雪には苦労した。 岳沢からは上高地に下るだけ、のんびり歩いていると轟音と共に天狗沢が雪崩れ、沢筋の登山者が危うく巻き込まれそうになった。間一髪で登山者は助かったが、あまりに突然のことでしばらく立ち尽くす。奥明神沢下降中によく雪崩れなかったものだ。 最後にハプニングがありびっくりしたが、ほどなく上高地に下り河童橋のたもとで一休み。冷えたビールで乾杯し、充実した山行を終えることができた。
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