ヨセミテ 紀行

 

記 中島 憲一 

 

 昨年6月、私はヨセミテでクライミングを楽しんできました。だいぶ遅れましたが、記憶が薄れないうちに報告します。

 岩登りを始めた1980年代初期、ヨセミテ流のクリーンクライミング(いうところのフリークライミング)が大ブームでした。その後のフリークライミングの流れと隆盛は衆知の通りで、これからも発展し続けるでしょうが、その原点がヨセミテであることに異論はないでしょう。
 ヨセミテの大自然と花崗岩のすばらしい岩は、クライマーにこの上もない喜びを与えてくれます。実は、今回のヨセミテ行きは急に決めたので、準備不足で充実していたとは言いがたいですが、ヨセミテの気分に浸ることはできました。

 この報告がクライミング好きの方々の、参考になればと思っています。

 

 きっかけ

 一昨年末、父が他界し急遽帰国することになった。その後、しばらくぶらぶらしていましたが、2月に堂満岳でプロガイドの森中氏とばったり出会った。数年振りの再会で旧交を温めていくうちに、森中氏が主催するヨセミテツアーに来ないかと誘われた。
 最初はマナウス(ブラジル)に帰る途中、ヨセミテに寄ってちょこっと遊ぶだけのつもりでしたが、いつのまにか話が飛躍して「お互い長い付き合いだし、いっちょうプライベートでビッグウォールをやらないか!」ということになった。

 目指すはエルキャピタンの「ザ・ノーズ」

 さて、現役バリバリの頃ならともかく、しばらくクライミングから遠ざかっており、正直ホントに登れるのか不安でした。しかし長い人生こんな機会はそうありません。登攀歴20年の総決算のつもりで、思いきってチャレンジすることにしました。

 

 トレーニング

 正式に参加を決めたのが3月末、出発まであと2ヶ月ちょっとしかない。まず体を岩に慣らさねばならない。ここ数年ほとんど登ってなかったけど、いきなり登っても5.9クラスならまだ体が覚えていた。岩場に通いつめると、すぐに10cは登れるようになったが、そこからが難しい。なかなか上達せず5.11の道は遠かった。
 どっちみちノーズは、人工(アメリカンエイド)で登るからと勝手に納得し、フリー(クラック・クライミング)よりも、アメリカンエイド、ユマーリング、荷揚げ等登攀システムの練習に重点をおいた。
 短期間で満足なトレーニングができるはずはなく、ジャミング、ナチュラルプロテクションの練習が決定的に不足して、現地ではエライ目にあってしまった。

 

 

 ヨセミテの生活

 ヨセミテ渓谷を訪れる人の半分はツーリストです。残りの半分がキャンパー〔オートキャンプ〕で、そのまた半分がトレッカー(ハイカー)です。クライマーは全体から見れば少数派。早い話ここはリゾート地です。
 それゆえ施設は完備。ホテル、スーパーマーケット、レストラン、ショップはもちろん病院、郵便局、教会の他、シャワー、プール、野外劇場まであり、生活には全く不自由しません。登山用具はマウンテンショップに全て揃っており、私はここでビッグウォール用のハーネスとギヤラックを購入しました。

 公園内は無料のシャトルバスが巡回していますが、車で移動する方が便利です。

キャンプ4 キャンプ場は何箇所もあり、クライマーはサニーサイドのキャンプ4に集まります。ここには世界中からクライマーが集まります。私はとっさの一言がポルトガル語になってしまい、たまにヒスパニック系?の人から、スペイン語で喋ってこられたのには参りました。
  日本からも有名クライマーを始め、多くの人達が来ていました。ただ日本人は群れたがるのか、奥の方で固まっていたみたいです。私達はキャンプ場の入り口付近でテントを張っており、他のクライマーやキャンパー達と和気あいあいとやってました。私達の嘘っぽいイングレースでもなんとなく通じてたから、クライマーは皆単純なのでしょうか。

 一般的にアウトドア派はレベルが高いです。皆、親切でマナーが良い。テントが荒らされたり、盗難に遭うことは皆無でした。キャンプ場で危険なのは、熊が出没することで、食料は全て鉄製のストッカーに保管しなければなりません。
 さて天候ですが、まず雨は降りません。というよりほとんど雲がないのです。朝方からどこまでも青い空が広がり、日が昇ると強烈な日差しで暑い。ただ空気はからっと乾燥しているから、木陰は涼しく過ごしやすいです。私はほとんど外で寝てましたが、夜や早朝テントが結露することはありません。

 

 私達の一日は、朝起きてコーヒーと朝食、車で岩場まで乗り付け、昼過ぎまでクライミング三昧。その後シャワーでさっぱりして、缶ビール片手にショップのテラスで憩う。クライミング中はすごく暑いですが、乾いた喉にはビールが美味いです。
 食材買い出し後、キャンプ4に戻りビールで乾杯して夕食。8時(夏時間)ぐらいまで明るいです。夜がふけると焚き火を囲んで、飲み、歌い、語る・・・ 
 まさに「食う、寝る、攀じる」の毎日で、こんな生活を続けてたら、まず社会復帰はできないでしょう。

 ヨセミテ

行 動 概 要

6月4日 

 私、森中氏、M氏の3人は日本を出発。サンフランシスコでプロペラ機に乗り継ぎフレズノに到着した。ここでレンタカーを借り、一路ヨセミテ国立公園に向かった。
 平原をすっ飛ばすこと数時間、辺りの景色は深い森に包まれた山岳地帯に変わった。そしてワノナトンネルを抜けると、ぱっと視界が広がりヨセミテ渓谷が一望できた。
 ハーフドームを始めヨセミテフォール、カショエードラルロック・・・雄大な眺めだった。目指すエルキャピタンは屏風の3倍ぐらいか・・・
 渓谷内を一巡りし、キャンプ4に着いたのは日暮れだった。既にキャンプ場の受け付けは終了しており、この夜は車の中で眠った。

 

6月5日 Manure Pile Buttress − Nutcracker 5.8 5p ☆☆☆

 午前中、テント設営と荷物の整理、昼からManure Pile Buttress に行った。すっばらしい花崗岩に、数十mのクラックが走っている。「オー、これが本場のクライミング!」と感動したいところだが、ビレイポイント以外は全く残置ピンが無い。
 クラックに慣れてないうえ、カム・ナッツをセットするのがメチャ難しい。なにより今までほとんど、ナチュラルプロテクションで登ってないからメチャクチャ怖い。堅いクラックにカムがバシバシに決まるとはいえ、「落ちて外れたら・・」と思うとプレッシャーで足が震えてくる。
 3ピッチ目のテラスで、えらく順番待ちし昼寝タイム。時差ボケで眠い、眠い。

 

6月6日 Serenity Crack Area - Super Slab 5.9 5p ☆☆☆

 昨日以上に素晴らしいクラックの連続ですが、これがまたメチャクチャ厳しいです。ジャミングが全然決まらず手も足も痛くて堪らない。これでもグレードは5.9。2グレードは難しく感じる。それにしても強烈な日差しで暑イー!

 

6月7日 Harf Dome

 今日はハーフドームへのトレッキング。たんなるハイキングだと、たかをくくってました。バーナルフォールまでは、景色も良くのんびり歩いてました。
 が、しかし、だんだん日が昇るに連れ、からっからに乾燥した大地に強烈な日差しと暑さが襲ってきた。ルートは樹林とはいえ、ハーフドームの裏側を回り込むから結構距離がある。水は1リッターぐらいしか持ってきてないので、マジでヤバクなってきた。案の定ドームを登る前に脱水症状を起こしてへろへろ。

 ハーフドームの登りは急峻な岩のスラブで、山頂までワイヤーが張られている。喉の乾きに加えて、ワイヤーを掴んで登っていくから腕が疲れる、疲れる。
 さて登るのが一苦労なら、下るのも一苦労。ハーフドーム登攀後、重荷を背負って中村、横山両氏はどうやって降りたのだろう。

 

6月8日 Lower Yosemite Falls

 レスト日、私と森中さんは、Lower Yosemite Fallsのショートルートで遊ぶ。昼からはフリータイム、木陰でのんびり昼寝した。

Jamcrack 5.9 ☆☆ クラックに慣れてきたせいか、軽くリードできた。
Bummer 5.10C ☆ トップロープでもシンクラックに全く歯が立たない。

 

6月9日 Dafu Dome - Westan Clack 5.9 6p ☆☆☆

 早朝、ヨセミテ渓谷を離れツールズメドーへ車を走らせた。高原に森と岩山が点在する風光明媚なところで、Dafu Dome のWestan Clackを攀じた。
 なかなか好ルートで面白かったけど、ここは標高2500mぐらいで少し寒い。ところどころに雪が残っていた。登りきったドーム頂上からは大パノラマ、西部劇映画そのものの大自然が広がっている。こういうところを馬で旅したいものだ。
 昼からはドライブを楽しんだ。雄大な自然とラジオから流れるカントリーミュージックに気分はアメリカン!

 

6月10日 The Nose 偵察

 先に帰国するM氏をフレズノまで送り、帰路スーパーマーケットで食料を買い出す。一旦キャンプ4に戻り、エルキャピタンへ向かう。ノーズの取り付きまで登り、ルートを偵察した。この日は上部に2パーティーが登っていた。

 

6月11日 The Nose 荷揚げ

 岩壁基部まで登攀具、水25リッター、食料を2回に分けて荷揚げ。(といっても道路から基部まで30分弱)。下部の岩場を登り、ホールバックを取り付きまであげる。
 予定では、登攀に4〜5日を要し、しばらくまともな物は食えそうにない。この夜はガツガツ食いだめした。

  ヨセミテ渓谷マップ

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