![]() 私の思い入れのあの山あのルート 首藤 智一 去年秋,直前に骨折して登れなかった北岳バットレス。 1999年10月,前年からポツポツと縦走していた自分と連れの二人組。 広河原から大樺沢を登っていって,白根御池小屋からの出会いを過ぎた辺りで一服。歩き出したところでどうしたものか沢筋を一本右に入ってしまった。人気がなくなり,おかしいとは思いながら明瞭な踏み跡を追って沢を詰めて行った。一般道とは思えない,岩場を乗り越えてそれでもなぜか惹かれるように先へ進むと,高い一枚岩に突き当たった。 見上げるフェイスには支点が取られていて,褪せた赤い色のシュリンゲが掛かっていた。あれはどう使うモノなのか。無理に登れないこともないか,しかし登ったら降りられない,と見上げる岩の上の秋空から,キンキンキンと槌を打つ音がはっきりと聞こえた。何の音かは知っていた。もはや進める領域ではなかった。 あの先はどんなところか。 引き返して大樺沢に戻る道中,ザイルを背負った2人組とすれ違った。一般道に戻って八本歯のコルに差し掛かると,壁に取り付いた小さな赤い点から,あと10メートル,5メートルとかけ声が聞こえてきた。特殊な技術を持った無関係な人々。彼らや壁と,関わるすべなど思いつかなかった。 その翌秋から岩峰会に加わり,第4尾根は初級者コースとの話を聞いた。そうは言われても何が初級なんだか分からない。あんな所を,自分が登れるようになるのか。 春から岩場に行きだして,基礎的な訓練をして,秋には太刀打ちできそうな見込みが付いて,文献も見て,足立さんリーダーの計画が立ち,キッシャンとザイル組んで,と思っていた。 あの日の,あの先の領域に。 と思っていたら,過ちは易き所にてなんとやら,もっさいケガで直前回避。無念,思い入れのルートとはなった。という訳で,目下所謂アルパインの第一目標は北岳バットレス。 この秋には登りたい。 次回はキッシャンこと岸本さんです。 |