この歌集、いつ頃、どこで、何の為に買ったのかさっぱり覚えていない。もちろん全く使った覚えもない。裏表紙に定価¥680円とあるから、ただの衝動買いだったのだろう。安いだけあって紙質が悪く、今は茶色く変色してる。
たしか「山と渓谷社」からも山の歌集が出版されていたはずです。こちらは歌の由来やエピソードが解説されていて、興味を引いたけれど、高くて(あくまでコストパフォーマンスが)買うのをためらった記憶がある。本連載開始以来、本屋を物色する機会が増えたけど、この種の歌集など全く見かけません。いまどき山の歌集なんて出版しても売れないのだろう。
このところ、山での宴会もめっきり少なくなり、焚き火を囲んで歌うなんてことは、すっかり廃れてしまった。しかし、私が新人の頃は、金毘羅や比良のトレーニング山行でさえ、前夜から出かけキャンプ場で飲み、語り、歌うのが常でした。
私は別に歌が好きというわけではありませんが、飲んで騒ぐのは大好きで、酔いに任せて歌うのは楽しかったです。以前、当会作成の歌集があり、改訂版も作ったはずですが(その割には古い曲ばかり)、今はどうなっているのだろう。
■『新人哀歌』を初めて聞いたときは、吹き出してしまった。植村直己さんも明大山岳部の新人合宿で「泣く思いで歌わされた」と綴っています。でも、こうした歌が歌える山岳部は、きっと楽しい思い出として残るのではないでしょうか。
■『アルプス一万尺』の替え歌は多いですね。歌詞からすると童謡(原曲はアメリカ民謡)ではなく、れっきとした山の歌なのですね。よく歌われる3〜4番までは、ボーイスカウトレベル。10番まで歌って岳人レベルといえるでしょう。ところで、一尺は30.3cmだから一万尺は3030m、小槍の標高には少し足りないのでは?
■『雪山賛歌』の原曲が西部劇の『愛しのクレメンタイン』なのは有名です。子供の頃から知っていましたが、作詞が、かの西堀栄三郎先生だと知ってから、それまで何気なく歌っていた歌が、がぜん深みを増してきた。初めて三の窓からチンネを見上げたとき、まさにそこは、“ 雪よ、岩よ、我らが宿り〜♪♪ ”の世界だった。(ちなみにチンネの初登は、西堀氏ら旧制三高パーティー)我が国アルピニズムの黎明期、古き良き時代の息吹きが聞こえてくるではないですか。
■『いつかある日』は70年代に女性フォークシンガーが歌っていたのを覚えています。なかなかいい詩で、作者はロマン派の詩人と想像していました。登山を始めてから、原詩の作者ロジェ・デュプラが、1951年ガルワール・ヒマラヤのナンダデビー(7816m)主峰〜東峰縦走中に消息を絶った登山家だと知って、歌詩の重みがまるで違ってきた。未登の8000m峰がまだ残されていた時代、より困難な登攀を求め、ヒマラヤの高峰を縦走する壮大な試みに賭けた情熱が、ひしひしと伝わってきます。
こうしてみると、山の歌も意外と奥が深い。他にも由緒ある歌が多々あると思いますが、私の知識不足でこれ以上のことは書けません。逆にいろいろ教えてもらいたい。
だいたい私は、酒飲んでみんなに合わせて歌っていただけですから、山の歌はもうあまり覚えていません。もっと真剣に聴いてレパートリーを増やしておけば良かったと思っています。
原稿を書くにあたり、ネットの音楽サイトで、『谷川小唄』(ズンドコ節の替え歌)『岳人の歌』『信濃恋唄』『エーデルワイスの歌』等々、諸先輩が愛唱された歌を聴いていて懐かしかったです。
山の歌を、鼻歌まじりに登ることはあっても、みんなで歌う機会が本当になくなってしまった昨今、居酒屋で世間話をするのも、テントの中でエロ話?をするのも悪くないけど、昔みたいに焚き火を囲んで、みんなで歌いたいなあ〜と思いました。
話しは飛びますが、ヨセミテのキャンプ4で風来坊ふうクライマーが、ギターの弾き語りをしてくれた。星空の下で聞く歌は、カラオケとはまた一味違って心に響きます。
中高生の頃フォークブームで、私もギターをジャカジャカ弾いていた。もう何十年もギターに触っていませんが、まだ少しぐらいコードは覚えています。この歌集をあらためて見ると、楽譜にコードがふってある。今にして思うと、コソ練?して、キャンプの夜に弾き語りするつもりだったのかもしれない。
『大きな古時計』がヒットするのだから、懐かしのメロディーも意外にイケテル?かもしれません。もっとも、オッサンの自己満足で古い曲を歌っても、座がしらけるのは必定。若い人に、いまふうの山の歌(そんなんが、あるのか定かでないが)を歌って欲しいと思います。
最後に、原 真氏がエッセイで、「海外遠征のとき、ベースキャンプの親善パーティーで、日本の登山隊は諸外国の連中のように合唱ができず、場の雰囲気に溶け込めない。・・・外国の登山家が歌う歌は、みな古くからの伝統的な民謡で、その国固有の歌なのだ。日本人の場合、これだという、みんなが共有できるような歌がない・・・」と嘆いておられたことを、付け加えておきましょう。