連載第10回    今月の一冊

『 みんな山が大好きだった 』 山際 淳二 著

記 岩田


 かつてスポーツキャスターも務めた山際淳二氏を覚えている方も多いと思う。残念ながら、若くしてすでに亡くなられてしまっているが、スポーツ選手を題材にしたノンフィクションに優れた作品を残している。代表作といえば、「江夏の21球」、「スローカーブをもう1球」などの野球モノである。これらは野球史にのこるような劇的な場面において、選手達が何を考えていたのかということを、インタビューを通して浮き彫りにしている。
 「みんな山が大好きだった」は、今や伝説と化したクライマー達の軌跡をたどるものである。ただし、ここに登場するクライマーは皆、山と格闘し散っていったものたちばかりである。よって、直接クライマーに取材はできない。その人となりであるとか、その偉大な冒険の裏でどのような心の葛藤があったかなどということは、もはや直接知ることはできないのである。
 そのためクライマー達が残した文章を丹念に拾いながら、人物像を構成し、どんなことを考えながら登攀にうちこんでいたのかを想像する、といった内容になっている。 そういう内容ゆえに、山際ノンフィクションとしては、今一つの感があるのは否めない。しかし、登場するクライマー達があまりに強烈な個性の持ち主のため、十分に読み応えのある作品に仕上がっていると思う。
 中でもとくに印象に残るのクライマーは、森田勝である。僕にとって憧れのルートである「3スラ」の冬季初登攀を成し遂げた人物である。「神々の山嶺」(夢枕獏)の登場人物「羽生」のモデルにもなっている。
 森田勝は劣等感を跳ね除けるように、山にのめり込み、頑なに自己をつら抜き、譲るということをしなかった。当然まわりとの間の軋轢は相当のものであった。はっきり言ってスマートな生き様とは言い難い。当然ながら、そんな性格が災いして、ビッグタイトル(例えばヒマラヤの初登頂など)とは縁がなかった。(結果的にはそれが、当時不可能視されていた冬の3スラ初登攀につながっているのであるが。)
 それにつけても不器用な生き方である。あまりに純粋すぎるといっても良い。多分当時のまわりの人々は、振り回されまくって大変だったろうが、現代の男に失われた激しさは、なかなかに魅力的だと思う。
 この本に登場する人物はほかに、加藤保男、長谷川恒男、ヘルマンブールといったところであるが、著作を残している人も多い。この本を読んで、魅力的なクライマーに出会えたら、その著作を探してみるのも面白いと思う。ちなみに森田勝の場合は、「狼は帰らず」という本で佐瀬稔が書いている。

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